なぜ今、鬼滅の刃が求められるのか?

こちらは、専門家の方々の鬼滅の刃メガヒット分析。奇しくも私が書きたいと思っていた主題だったので、読みたいのをガマンして自分の分析を書き終えました。

 

鬼滅の刃の分析を書きました。他にもいろいろ分析があるとわかったので、影響されないよう、それを見る前に。新世紀エヴァンゲリオン然り、進撃の巨人然り、なぜ凶暴であったり残酷で流血描写の多い作品が社会現象になるほど人気なんだろうと、秘密が知りたくてそれぞれ自分なりに分析して納得してきたんですが、その好奇心がうずいて、鬼滅の刃も確かめてみました。

 

作品自体に抵抗がある方にも、最後に紹介した作者による文章は、ぜひ読んでほしいです。私は読んでいて、戦争や原爆で亡くなった人を想いました。

 

なぜ今、鬼滅(きめつ)の刃(やいば)が求められるのか

 

徳本光香

 

注意※ 執筆者個人の見解であり、作品の内容(ネタバレ)を含みます。

 

「鬼滅の刃」を読んだことがありますか。累計発行部数1億2000万部、映画は興行収入が日本映画史上1位になった大人気漫画です。舞台は大正時代、人喰い鬼に家族を殺された炭焼きの少年・炭治郎(たんじろう)が、鬼にされた妹と人々を守るため、仲間と共に闘う物語です。

 

私は、この漫画のすさまじい人気に、どんな話か気になりながらも、怖くて読むのを躊躇していました。けれど、子どもから大人までの熱狂的な人気のわけを知りたくて、ついに読んでみました。

 

鬼が人を喰う殺し合いの物語に賛否両論あるのは当然のことです。おぞましい描写もありますが、確かにおもしろい。個性豊かで魅力的な登場人物と、修行と戦闘あり、緊張をゆるめる笑いありの物語でした。

 

けれどこれらの魅力は、程度と好みの差こそあれ、人気の少年漫画には必須の共通要素です。アニメの絵や動きの質の高さや、グッズ化しやすいキャラクター、惜しげもなく速い展開と潔い23巻での完結など、いろいろな理由がヒットを後押ししたと思いますが、年代をこえた人気の背景には、他の作品にない、時代を映し出し人々の心をつかむ別の理由があるはずです。それを探る気持ちで私が見つけた人気の理由は3つです。

 

人気の理由1つ目は、この文字通り弱肉強食の物語は、現実社会を比喩的に表しており、その残酷な世界を生き抜く子ども達の姿に激励されるのではないかということです。今、数%の人が世界の富を独占できる「新自由主義」社会のもと、多くの人は将来が不安定な非正規労働者です。生まれながらに生活や教育環境が不公平なのに、生きることすら自己責任と言われます。

 

いわば、富や権力を独占する人たちが、力が強く怪我も即座に回復できる「鬼」で、税金を納め必死に働いても報われない人々が、生身の人間である「炭治郎」たち。鬼が人を喰う無惨な世界は、一部に大勢が搾取される現代を映す鏡のようです。しかし「鬼滅の刃」の世界では、子ども達が必死に闘い、「柱」と呼ばれるリーダー達が、命がけでそれを守り導きます。権力者がウソで罪を逃れ、新しい感染症から国民を守ることもできない今の日本の政治と比べると、素直に羨ましく思います。

 

私が感じた人気の理由2つ目は、作品の根底に人への優しさが流れていること。例えば、同じく弱肉強食の、人喰い巨人がいる世界を描いた漫画「進撃の巨人」では、家族を殺された主人公は、憎しみを原動力に自由を求めて巨人を駆逐しますが、炭治郎は、他者を守り、悲しみの連鎖を断つために闘います。鬼が刀で切られて消える瞬間、人間だった頃の心を思い出して自分の行いを悔いると、炭治郎は鬼の悲しみに共感し、罪の心をも救います。悲劇の中でも最後までぶれずに他者に優しくあり続ける炭治郎や仲間の有りようは、皆が不安な今こそ求められ、応援したくさせるのではないかと感じました。

 

蛇足ですが、「進撃の巨人」は、人喰い巨人が本当に悪いのか?人だって生き物を食べるじゃないか、巨人とは何なのかという世界の仕組みの謎解きの物語であるのと比べて、「鬼滅の刃」は、喪失の中で心折れずに大きな敵に立ち向かうというわかりやすい物語で、技の多彩さなどもあることで、子ども達にも支持されていると思っています。だからといって、子どもにこの漫画を勧めるかと言われれば、トラウマにならない年齢で読んでほしいと私は思います。

 

わかりやすさ、単純さという点については、大正という舞台ゆえか、作者の思考によるのか、「男なら」「長男だから」「女の子とは」といった、今では時代遅れになってきている考え方がちらほら見られるので、その点だけは話の残酷さに加えて、唯一気になるところでした。ともかく、大きな絶望や喪失と優しさを中心に据えて心を描いたという漫画は、面白さが軸に来がちな少年漫画の中で、もしかしたら初めてかもしれないなと感じています。

 

人気の理由3つ目は、個々の命の重さと多様性を認める価値観です。名もない隊士や、治療や生活の世話をして隊士を支える人たち、ケガをした人(障がい者)、容姿や生い立ちに劣等感のある人、個性を疎まれ排除されてきた人が登場し、その人たちへの温かい目線があります。

 

考えてみれば、鬼を切る隊士は、全員が例外なく、家族を失くしたり自らが虐げられたりと不幸な境遇にある上に、元々は人間だった鬼さえもが同情を誘う不幸を引きずっていて、本当に悲しい。これほど暗い要素の物語がここまで支持されるということは、多くの人が今、悲しみに共感する物語を欲しているということなのだろうと思える。

 

また、作者が、1人のヒーローに勝たせるのでなく、時を超えて、皆で助け合って互いの弱点を補い、あらゆる手段でがむしゃらに平和を勝ち取ることを選んだことがすばらしい。最後の闘いが終った後の文章は感動的で、作者が一人ひとりの命と想いを大切にしていることがわかりました。

 

今年は、総選挙の年です。権力者が、炭治郎が切った鬼のように利己的な政治を悔いることはないと思います。けれど私は、選挙を通して格差と不自由を産む社会構造を変え、一方的に搾取する「鬼」のいない、誰もが安心して生きられる、皆に優しい社会に変えたい。「人間が想像できることは、必ず実現できる」とジュール・ヴェルヌは言いました。私たちには、地球を保つ義務と、不安なく創造的に、自由に生きる権利がある。人の想いは永遠。ひとりでは不可能でも、多くの力を合わせればできる。その第一歩は、みんなが選挙に行くこと。私も、心を燃やして、猪突猛進!いつもとはいかないだろうけども…。

最後に、作者のメッセージが込められているであろう2つの文章を紹介します。

 

<第204話より>

 

光り輝く 未来の夢を見る

大切な人が笑顔で 天寿を全うするその日まで 幸せに暮らせるよう

決してその命が 理不尽に脅かされることがないよう願う

たとえその時 自分が傍らにいられなくとも

生きていて欲しい 生き抜いて欲しい

あなたが私だったら きっと同じことを言うはず

ただひたすら平和な 何の変哲もない日々が

いつまでもいつまでも 続きますように

 

 

<最終巻 最終話のあとに掲載>

 

生まれてくることができて 幸福でした

どうか笑顔を忘れないでください

あなたが泣いていると 悲しくてたまらなくなる

後ろめたいなんて そんなこと思わないで

私たちがいたということを 憶えていてくれるだけでいい

共に戦い 共に笑った

兄弟のように 親子のように

 

胸を張ってください

あなたと出会えたことが

何よりの幸運 そして幸福だった

あなたの存在が私を救い 孤独も全て蹴散らした

あなたを想うとき 燃えるような力が体の奥から湧いてくるのです

 

叶うことなら 生きて傍にいたかった

みんなそう 一番の願いは

でも 選ばなければなりませんでした

生きるか 死ぬか 勝つか 負けるか

 

けれど 選べるだけまだ幸せです

本当につらいことは

雪崩のように一瞬で人を飲み込み

何も選ばせてはくれない

 

ただ 守りたかった

自分の命よりも

あなたの命が重かった

幸せは 長さではない

見て欲しい

私のこの幸せの深さを

自分のことが不幸だなんて

思ったことは一度もない

 

諦めず 逃げ出さず 信じ続け

いつだって その時自分にできる 精一杯をやりました

たくさんの強い想いが

大きな大きな刃となり

敵を討った

 

みんなの力です

誰一人欠けても勝てなかった

生きていることは それだけで奇跡

あなたは尊い人です

大切な人です

精一杯生きてください

最愛の仲間たちよ

 

<終>

 

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